シルクを知る
直径3cmの繭から、1,500mの糸
東京都クリーニング生活衛生同業組合の解説によれば、絹は蚕蛾(カイコガ)という蛾の幼虫がつくる繭から得られ、直径2〜3cmの繭から約1,500mもの長い糸を作ることができます。手のひらに乗るほどの繭から、1本の途切れない糸が1km以上とれる——この一点だけでも、他の天然繊維とはまるで成り立ちが違うことが分かります。
綿や羊毛は短い繊維を撚り合わせて糸にしますが、絹は最初から長い1本です。この違いが、なめらかさや光沢の土台になっています。
フィブロインとセリシン、二層構造の繊維
繭から引き出した繊維(生糸)の断面は三角で、中心は絹の主体となるフィブロイン、外側をセリシンというたんぱく質が覆っている、と同組合は説明しています。繭糸や生糸に石鹸やアルカリを用いるとセリシンを取り除くことができ、セリシンが除去された繊維は練糸と呼ばれます。
セリシンは固く張りがあり、染色などの加工がしにくいという性質があるため取り除かれますが、残しすぎると絹特有のやわらかな風合いが出ません。どれだけ除去するかで仕上がりの風合いが大きく変わる、というのがこの工程のむずかしさです。
練糸の太さは約10μ(0.01mm)とされていますが、同組合によればこれは数百本のフィブリル繊維が集まってできたもので、1本のフィブリルは1μ、さらに0.1μという細さです。絹を触ったときの独特な感触は、この階層構造から来ています。
光沢の理由は、プリズムのような断面
同組合の解説では、シルクの光沢はフィブロインのプリズム状の三角断面に由来すると説明されています。光をそのまま反射するのはごく一部で、透過する光、屈折する光、内部で二次反射する光などがフィブリルの中で繰り返されるため、独特で深みのある光沢になる、というしくみです。
つまり、絹の光沢は表面に何かを塗ったものではなく、断面の形そのものが作っています。合成繊維で絹に近い光沢を出そうとするときに、繊維の断面を丸みのある三角形にする加工が行われるのは、この構造を模しているからです。
弱点は、はっきりしている
同組合が挙げる絹の短所は次のとおりです。
- 摩擦に弱い
- フィブリルが束になって繊維を構成しているため、強い摩擦で繊維が割れて毛羽立ちやすい
- 毛羽だった部分は光の乱反射で白っぽく見える
- 紫外線に弱く、黄色〜褐色に変色する
- 水洗いすると光沢が消え、収縮したり色物は色落ちしたりすることがある
- 水に濡れると繊維が膨張し、乾燥しても元に戻らないためシミの跡が残る
- 虫害がある
同組合の繊維一覧でも、絹は「汗や摩擦によって毛羽立ちや変退色が起こりやすく、紫外線で黄変する」とまとめられています。長所と短所が、どちらもフィブリル構造という同じ出どころから来ているのが分かります。
扱いは「汚さないように着る」が前提
絹は獣毛製品と同様に、風合いや光沢を楽しむ嗜好品的な要素があるため、着用や着用後のメンテナンス・クリーニングには特別の注意が必要だと同組合は書いています。過度な着用や運動を避ける、鞄で擦らない、連続着用を避ける、保管時は防虫剤を使う、強いクリーニングをしない——気軽に洗えないからこそ、そもそも汚さないように着る必要がある、という整理です。
静電気の面では、プラス寄りの中間
絹は帯電列でプラス側寄りに置かれますが、ウールやナイロンほど端ではありません。3件の帯電列資料で絹>レーヨン>綿という並びは一致しており、この中間域の順序は比較的安定しています。マイナス側の端にあるポリエステルやアクリルと重ねると、離れた組み合わせになります。
なお、絹は吸湿性が高く、公定水分率も高い部類です。この値は物性データ表に出典つきで載せています。
タグでの書かれ方
消費者庁の指定用語表では、絹の指定用語は「絹」「シルク」「SILK」の三つです。
向いている服・気をつけたい場面
インナー、スカーフ、パジャマのように、なめらかさと吸湿性が効く用途が得意分野です。汗を大量にかくスポーツや、頻繁な洗濯を前提とする服には向きません。重ね着の組み合わせは、チェッカーで確かめられます。